(1) 蚊が血液を吸う目的

(2) 鉄の利用に関わるタンパク質の遺伝子解析

(3) ウイルスとレセプターの相互作用

 

 

 

 


(1) 蚊が血液を吸う理由

 雌の蚊は血液を得ることで卵を発達させて産卵します。この際,血液を得る目的はタンパク質(アミノ酸)を得るためだという報告が数多く存在します。卵の発達のために,アミノ酸が必要であることはよく理解できます。しかし,これは実験環境下(栄養豊富)の結果であり,自然界での貧栄養の生育環境とは異なると考えます。ヒトスジシマカなどは水たまりでも発生することから,制限された栄養状態でも生育できます。そこで,貧栄養で育てたボウフラではどのようになるかを明らかにします。この系で実験を行えば,アミノ酸以外の産卵に必要な因子が明らかになると考えられます。

(2) 鉄の利用に関わるタンパク質の遺伝子解析

 鉄イオンはヒトにおいては排出系がないほど重要な金属イオンです。このイオンは血液中に豊富に存在することから,蚊においても重要なイオンであると考えられます。そこで,鉄イオンの吸収,分配のためのタンパク質を同定することにしました。蚊(ヒトスジシマカ)のゲノム塩基配列は決定済みですが,個々の遺伝子についてはほとんど解析されていません。私達は,蚊からmRNAを得,cDNAに変換後PCRによって鉄イオンの利用タンパク質の遺伝子を得ました。それらの遺伝子の塩基配列を決定した結果,それらの内のいくつかは登録されているアミノ酸配列と一部異なることがわかりました。ヒトスジシマカは東南アジアが原産ですが,今日世界中に広がっています。その過程で変異が入り,タンパク質としても異なる活性を持つようになったのかも知れません。それを明らかにするためにも,活性測定,組織のどこで発現しているか(WISH法で)解析します。

 (3) ウイルスとレセプターの相互作用

 あるウイルスが蚊によって媒介されるということは,そのウイルスが蚊の中で増えるというステップが必要です。そのためにはまずウイルスが蚊の細胞に侵入する必要があります。そこで,ウイルスタンパク質と細胞のレセプターの相互作用を同定する系を作製します。今世間を騒がせている新型コロナウイルスは蚊によって媒介されることはありません。しかし,このウイルスが人に感染するときに利用しているレセプター (ACE2) を蚊も持っています。ただし,人のレセプターと蚊のレセプターはかなり異なっているために,今のところ結合しないと思われます。そこでウイルスタンパク質とレセプターの相互作用を明らかにする系を開発すれば,新型コロナウイルスのタンパク質あるいは蚊のレセプターに人工的に変異を入れて結合できるようになるか明らかにできます。この系は,各種ウイルスや自然界の媒介生物の相互作用を明らかにすることにも役立ちます。


・山陽新聞社から取材を受け,それが記事になりました (2023.7.19)

 蚊はココナツの香りが嫌い(山陽新聞デジタル|さんデジ)