みなさん,世界で最も人を殺している生き物をご存じでしょうか?

 

 それは蚊です。2015年の統計によると83万人もの人を殺しています。2位に人で58万人,3位にヘビで6万人であり,いかに多くの人の命を奪っているかがわかります。ただ,蚊が人を殺しているといっても,直接殺しているわけではありません。ウイルスなどを媒介することによってこれほどの数の人が亡くなっています。83万人のうちマラリアによって40万人もの人が亡くなっています。マラリアは熱帯・亜熱帯地域で流行しており,原虫が病原体です。では日本ではどうでしょうか。

 

 現在の日本では,蚊によって媒介される感染症はほとんど見られません。海外で感染し,日本で発症する例が大部分です。戦後しばらくまでは日本脳炎やマラリアなどの蚊媒介感染症が見られましたが,日本脳炎はワクチン接種により,マラリアは媒介蚊の減少等によりほとんど見られなくなりました。しかし,2014年に東京を中心にデング熱が69年ぶりに国内流行しました。久々の蚊による感染症の流行でした。地球の温暖化により蚊の生息域が北上しており,グローバリゼーションによって海外からウイルスを持った人や動物が日本に入ってくることで,日本で蚊媒介感染症が流行することは十分にありえます。したがって,蚊媒介感染症は再び日本で問題になる可能性があります。

 

 日本で今後問題となる感染症にデング熱,ジカ熱,黄熱,チクングニア熱,西ナイル熱などが挙げられます。これらは熱帯・亜熱帯地方の感染症だと思われがちですが,重要なポイントは感染症には特異的な媒介蚊がいることです。先ほど挙げた感染症をを引き起こすウイルスは,ヒトスジシマカが媒介する能力を持っています。ヒトスジシマカは一般にヤブ蚊と呼ばれ,日本中どこででも見られる蚊です。したがってこれらのウイルスが何らかの形で日本に入ってくれば,ヒトスジシマカによって媒介され,国内で感染が広がることになるのです。

 

 感染するウイルスの研究,感染された人の研究は行われていますが,蚊自身の研究はそれほど進んでいません。特に,遺伝子解析はほとんどされていません。そこで,当研究室では蚊の栄養吸収やウイルスのレセプターについて遺伝子面から解析します。今流行している新型コロナウイルスも,変異の入り方によっては蚊によって媒介されるようになるかも知れません。